こって母君と一生懸命に碁をうって居た。そして几帳のかげの光君に時々声をかけては、
「いらしって御加勢なすって下さいナ、何だか雲行があやしくなってしまいましたもの」
なんかと久しい、なれたつき合いのようにたまに口を交したことほかない光君にしゃべりかける。わきに居る母君等はもうとうとうに目の中に入れてしまって居る。
 しいるようないやみな女の様子を一寸でも見たくない光君は幾度声をかけられても身じろぎもしない。自分を孔雀のように美くしい孔雀のようなおごりのある女だと思って居る常盤の君は、
「ほんとうに皆さま私達によくして下さるのに、彼の方ばかりはネーほんとうにどうあそばしたんでしょう」
なんかと母君に云いかける。
「どうしたもんでしょうかね、――このごろそれに何だか考え込んで居るようですからね」
「でも案外なところにほんとうの悪い人がひそんで居るもんでございますもの」
 こんないかにも母がそそのかして居るんだろうと云うようなことを云うんで気の小さい母君は居たたまれないような心持になって、
「私は一寸、御めん下さい」
と云って立ってしまわれる。常盤の君は自分のもくろんだことがあたったので気味のわるい笑をのぼせて居る。
 几帳のかげの光君はこれをきいていよいよいやみな女だと思ってかおを見たら云ってやることばまで考えて居た。いきなり几帳に手をかけた女は小声ではばかりながら、
「御ゆるし下さいませ、常盤の君の御云いつけでございますから……、御用心あそばせ」
と云いながら几帳をどけてしまった。その前には常盤の君が笑をいっぱいにたたえてすわって居る。
「何と云う人を見下げたことをする人だろう」
と思った光君の心は、男と云う名をきずつけられたような大きな□[#「□」に「(一字不明)」の注記]じをいだかせら□□□[#「□□□」に「(三字不明)」の注記]男の□□□[#「□□□」に「(三字不明)」の注記]は光君の口のはたに氷のような冷笑をうかべさせた。そしてとりつけた人形のようにわきを向いたまんまで居る。その様子にほほ笑んでひろげた口をすぼめて妙な目をした女は、
「マア何故そんなによそよそしい風をあそばしますの。同じ屋根の下に暮して居りますものを……どうぞも少し御うちとけなさって下さいな」
 あまったるい声で云う。光君は心の中で、
「何か云えば云うほどいやさがますばかりだ」
と思ってなんとも
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