藍色の毛糸で大人の足袋カ※[#濁点着き片仮名「ワ」、1−7−82]ァーをあんでいる満子が、上気《のぼ》せたような頬で、
「――少しきれいすぎたわね、これじゃ商品になっちゃう」
 自分の体から編みものを離して眺めた。
「じゃ、そうしちゃいなさいよ」
「だめよ、色がこんな派手じゃ」
 サエは、今夜特別の気持で、編物をする二人の手元に眺め入った。満子は、編物の内職で自身の生計をたてているのであるが、去年の暮は豊多摩刑務所におかれている夫の悌二に上下つづいた毛糸のパジャマを編んで入れてやっていた。そのことをサエは思い起しているのであった。
 十時すぎて、年越しそばを食べようと云うことになった。
「いいねえ」
「何? かけ?」
「かけ?――やすくて美味いたねもんないかしら……」
「きつねがいい、うまいよ」
「じゃ、きつね! きつね七つ」
「わたし、云ってきます」
 サワ子が部屋の中から襟巻を口のところまでまいて出て行った。
 小一時間も経った時分、台所で、
「こんばんはァ」
と呼んでいる声をききつけサエが急いで下りて行って見たら、それは荒物屋の若衆であった。箒、まな板、ザル、庖丁。そんなも
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