ような子供らしい笑いかたで、
「もう一杯のんでいいかね」
と、まさに眉の濃い顔を向けた。
「いいけど、――あるかしら……あやしいね」
サエがつまみにくそうに銚子のふたをとってなかをのぞいた。
「ある、ある!」
弾んだ声を出した。
「もう一杯ぐらいずつあるわ」
「味醂《みりん》て、たかいもんだねえ、一合二十八銭もするよ」
「ふーむ」
サエは、「こんどは専吉の分」そうはっきり心に思って、佐太郎の猪口に銚子をさした。「命があるように……」そう思って、まさやサワ子の猪口にも屠蘇を注ぐのであった。
二杯目の猪口をチャブ台の上に大切そうにおろしながら、七十六になったおばあさんが嬉しそうに口元と肩とをすぼめ、
「今年はお鏡を、あのひとの前へも飾りましょうかね」
恭々しく中指を立てて、むこうの壁際をさした。みんながそっちを見、一斉に何とも知れぬ笑声をあげた。そこの本箱の上には一尺ばかりのレーニンの鋳像が立っているのであった。
「そりゃ、いいや……」
いかにも満悦そうに若い進が体をゆすって笑った。みんなが一どきに笑っているなかで、佐太郎が真面目に声を低めて、サエに囁いた。
「おばあさん……あ
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