鏡餅
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三和土《たたき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あかぎれ[#「あかぎれ」に傍点]がポッポして
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正面のドアを押して入ると、すぐのところで三和土《たたき》の床へ水をぶちまけ、シュッシュ、シュッシュと洗っている白シャツ、黒ズボンの若い男にぶつかりそうになった。サエは小使いだと思ったらそうではなく、そういう風体《ふうてい》でそのへんにハタキをかけたり、椅子を動かしたり動きまわっているのは、制服の上衣をぬいだ巡査であった。
大きい包みを下げて二階へ上って見ると、ここもまたコンクリートの床は草履のふみどころもないほど水びしゃびしゃで、特高室のドアがあけはなされてある。
入って行くと、テーブルの上に脚を空に向けて椅子が積んである。特高主任は禿げた頭に頬かぶりをし、鼻と口とを手拭いでつつんでいるし、もう一人別な背の高いのが、
「これもとっちゃった方がいいですね」
と云いながら顎を上向け、よごれた指のあとをつけまいと小指をピンとはねて自分のダブル・カラーをはずしかけている。特高
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