がら、ゆき子は、
「本当にあなたはいつも瑞々しいねえ、暑い時はなおさら綺麗だ」
手早く井戸からくみ立ての冷たい水に梅酢をおとしてすすめた。瀧子は伊達巻姿のまま、息もつかずそのコップをあけた。
「ああ、やっとこれで正気にかえった! 御馳走さま」
そして、ハンケチで生え際を押えながら、瀧子が、
「あなた、狭谷町の山口さんから、何か話きいているの?」
と言い出すや、
「アラ、もう聞いているの」
いかにも他意なくはしゃいだ口調で、ゆき子は、
「でも私、実は困っちゃっているのさ」
人のよい、嘘のつけない当惑の皺をよせた。
「あの山口さんてひとは、信用もあるし、よく出来た男なんだけれど、どうも一つこまったことがあってね、そいであなたのことをたのまれながらつい渋っていたの」
瀧子は、我知らず団扇づかいを早めながら、
「ゆうべ、来たんですよ、突然」と云った。
「へえ。そうお? 元の細君だった女が、どんな女でも入れてみろ、きっと出してみせるって言っているっていう話があるんでね」
真面目な友情から、ゆき子は「私、山口さんに言ったのさ、その点はどうなんですって、をれをはっきり整理してからでなけり
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