色ある早口、時々私を視る眼光の鋭さ。生活力の横溢が到るところに感じられた。同時に、単純でない何ものか――謂わば狷介というようなものをも一面感じられる。――
 私は、自分からは、どう出てよいか分らず、瀧田氏から訊かれることだけを答えた。忘れたが、きっと、いつからものを書いているか、というようなことであったろう。原稿は置いて帰ることになった。どういうきっかけからだったか、瀧田氏はその時、
「あなたは、一生本当に文学をやって行く気ですか」
と訊いた。私は、その質問を寧ろ意外に感じた。勿論その積りなこと、そうでなかったら始めから来はしなかったろうという意味を答えたのを覚えている。
 ――初対面の時の、この一口で云えない瀧田氏の印象は、今も猶そのままに遺っている。然し、氏がどんなに中央公論を愛しているか、ジァーナリストとしての仕事を愛しているか、そればかりは当時の私にでもはっきりと分った。氏が雑誌につき、計画について話す調子には、いつも見えざる焔があった。知らず識らずの間にその熱が聴手にも移った。瀧田氏は瀧田氏で雑誌について喋っているのだが、聞いているうちに聴手は聴手で、また、聴手自身の仕事に一
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