共産党公判を傍聴して
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)合点《うなず》き合って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)党員たちが死んだ[#「死んだ」は底本では「死んた」]
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 三月十五日は三・一五の記念日だから共産党の公判を傍聴に行こうとお友達○○○さんに誘われました。わたしはこれまで新聞で公判のことをときどき読んでいましたが、どうもよく本当の様子が分りませんでした。正直に云うとこわいもの見たさのような気もあって○○○さんと一緒に東京地方裁判所へ出かけました。
 分りにくい建物の細い横のようなところから廊下をとおって、先ず公衆待合室というところへ行きました。外見は立派な役所に似ず薄暗いきたないところに床几が並んでいます。そこにもう二十人近い男女のひとが来ていましたが、初めてこういうところへ来て私が珍しく感じたことは、来ている人の多くが元気な眼つきをして互に挨拶したり話しをしたりして、ちっとも普通に裁判所と云うおっかないところに来ているようでもなくのびのびしていることでした。私は馴れないからショールを手にもって立って
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