楽しいソヴェトの子供
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)上被《うわっぱり》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)みんな|十月の児《オクチャブリター》と呼ばれる。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)リーダ・ボルトニコ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]
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――ミーチャ、さあ早く顔あらっといで!
お母さんは、テーブルの前へ立ってパンを切りながら、六つの息子のミーチャに云った。
――もうすぐお茶だよ。
父さんは、朝日がキラキラ照る窓ぎわへ腰かけて、昨夜工合がわるかったラジオを熱心に直している。ミーチャは口をあけてそれを見物してたところだ。
ミーチャは、風呂場へ行った。水道栓のわきに、低くミーチャの手拭と歯ブラシとがぶら下ってる。ミーチャは真面目くさった様子で、ちゃんと歯ブラシを上下につかって歯を洗った。
こういう風に低く自分の歯ブラシや手拭を風呂場へぶら下げとくことは、ミーチャにとって大得意だ。ミーチャがもっとずっと小ちゃかったとき、母さんがつとめている工場の托児所へ毎日連れていってた。やっぱり今と同じに、その時分も母さんが朝ミーチャを托児所まで送ってくれた。電車はいつだって一杯だったけれど、ミーチャと母さんは平気だ。何故なら、ソヴェトでは子供と母さんだけは電車の運転手台からのっていいんだから。その托児所で、ミーチャはほかの多勢の女の児や男の児と一緒に、朝起きたら歯をみがくこと、御飯の前にはきっと手を洗うこと、自分たちで遊んだオモチャは自分たちで、あと片づけすることなどを覚えた。そこでは、白い上被《うわっぱり》を着た保母さんがいて、御飯の世話をやき、少し大きくなったら、御飯のあとでアルミニュームのお皿を洗うことも教えてくれた。
――フフフフフ。
ミーチャは、歯みがき粉のアブクを口から垂らしながら思い出し笑いをした。
あすこに「赤い毛のワロージャ」とあだ名のあるいたずらっ児がいた。いつだったか、ポケットへ二十日鼠を入れて来た。女の児をそれでおどかしては泣かせて面白がってた。すると思いがけず白い上被の小母さんが「赤い毛のワロージャ」に、
――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?
ときいた。ワロー
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