めるようになった新しい社会的意義と一緒に、急がず、注意をもってしかも青年らしい溌剌とした自然な関心で異性を眺める状態にいるのであった。
 光井は、
「一本松の山本ね、あいつの妹がやっぱり東京へ来ているらしいんだが――知らないかい」
と云った。重吉は二つ三つ瞬きをしたがさり気なく答えた。
「どっか専門学校へ行ってるらしいよ」
 特別な関心をはる子にもっているというのではなく、重吉は、はる子の活動の便宜や安全を保護したのであった。
 二人の間には、文学談が栄え、やがて光井が、
「きのう、これも主筆にきいたんだが東高へ誰かが撒いたんだってね。講堂まで入ったんだってさ。仕様がないもんだね、みんなぽけーんとしているばっかりだったってさ」
 重吉は唇を結んで、黙ったまままたちょっとあぐらの片膝をゆすった。程なく時計を見て、
「どうだい、飯をくって行かないかい」
 光井は、両脚を揃えて一ふり振って起上りながら、
「もうそんな時間かい」
と髪を直した。
「どうせ例によって、はま鍋だろう?」
「あんまり馬鹿にしたもんでもないよ、この間読売にカロリー料理って出ていたよ」
「まあ何でもいいや。飯はあるのかい
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