らしく、
「でも何故――何か特別にそう思うわけがあるのかい」
 そして、ふざけて、
「何か野心があるんじゃないのかい、こわい、こわい」
と云った。
「大丈夫よ母様。僕、何にも欲しがりゃしないんだから――温室だって僕考えなしでこしらえて貰ったけど、本当はこしらえない方が正しかったのかもしれないんだし」
 順二郎が余り真面目にそう云ったので、瑛子の警戒心が目醒めた。
「誰かがそんなこと云ったのかい?」
「姉ちゃんといつか話した。そして僕、姉ちゃんの云うことが本当だと思った。――でも、折角こしらえて頂いたんだから僕出来るだけ無駄づかいしないようにして使うよ」
 瑛子は、我知らず坐蒲団の上に坐り直して、羽織の袖口から袖口へと腕をさし交しにして暫く黙って考えていたが、やがて呼鈴を押した。
「宏子さんを呼んでおいで」
 風呂から上ったばかりだった宏子が、珍しく元禄袖の飛絣を着て、羽織の紐を結びながら、
「なアに」
と入って来た。
「まあちょっとお坐り」
 瑛子は、宏子を残酷だと云って攻めて、仕舞いには涙をこぼして怒った。
「この順二郎ってひとが、ほかに何か無駄なことでもしているんならともかく、花を
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