なかったようです。なにひとつわるいことをしなかったうちの息子ばかり戦死して、となりの息子が無事にかえってきたのはいかにもくやしい。もう一度戦争でもはじまって、となりの息子も戦死すればいい、と。今日そう思っている人がはたしてどこにあるでしょうか。
シベリアや中国から帰還してきた人のなかには、まだひといくさを夢みていて、戦争に反対し、平和を叫ぶのはアカだというようなことをいいふらし、村の民主化をかきみだしている人もあります。けれども、そういう人のいる村でも、大多数の人が、こんにち本心からのぞんでいるのはなにかといえば、第一に生活の安定であり、自分の国の人民の生活を守りたてていく実力のある政府がなくてはならないということではないでしょうか。部落、部落がそれぞれ地主あいてに生活をまもってたたかっていたころとはくらべものにならない複雑さと大きさで、じかに政府のやりかたとくみうちして生きていかなければならなくなってきている農村のきょうの実状の中では、農村の主婦、母、未亡人たちすべてが、ただ黙々と野良、家事、育児と三重の辛苦を負うて目先の働きに追われていくだけでは、やっていけません。
たとえば、
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