このように時間の推移を逆にさかのぼって、今日あるあなたという一人の婦人作家の性質を考えて見ると、私達は、あなたに現在の、ある若さというものの価値を深く感じます。何故なら、作家野上彌生子の年齢的同時代としては、谷崎潤一郎だの平塚らいてうだの、僅六歳の年長者として永井荷風等があり、それらの人々の生活内容と作品とは、あなたとは全く別様のものです。あなたのように若いジェネレーションの息吹きがその作品の内に照りかえしてはいないのです。
 いつだったか「若い息子」が発表された後の頃であったが、あなたはごく寛ろいだ雑談の間で、こういう意味のことを云われたことがありました。世間のひとはあの作品を見て、私が飛躍でもしたように云うけれども、私はちっとも飛躍なんかしてはいないのよ。ただ子供たちと一緒に大きくなってここまで来たんですよ。私はリアリストとして、自分のまわりを眺めつつここまで来たのだ、つまり、あなたとしては、現実があなたに「若い息子」を書かしめたのであるという感想であったと思います。
 環境的に見ると、あなたの周囲は明治以来の東京帝国大学の系統をひいたインテリゲンツィアの一つの典型であると思われ
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