と坐る。どうもいろいろ御苦労さま。バラさん、寿江子にそう云うと、私はもう否応なく主《あるじ》で、病院にいた間とはすっかりちがい、ひとまかせにしていられない生活の顔がもう其処に在る。庭にあんまり霜柱が立って八つ手や青木がしもげているのにおどろいた。うちの水道はこの頃殆ど毎日凍っている由。
 うちが急に寒い。「わが家だからスウィートなんだろうけれど、こう寒くちゃアイスクリームだね」と笑う。笑いながら、心はなかなか激しく求めるものがあった。

 一月○日
 毎日風がひどい、ちっとも雨が降らず。二階で臥たり、読んだり。栄さん結婚十五年というので、何婚式になるんだろうと当用日記のうしろを見たら、これまで生れ月の宝石だの結婚記念などのあった欄が、すっかり「ス・フの知識」に変っていた。
○ キュリー夫人伝の話が出る。確に近頃では興味深く且つ感動的な本であった。あの本やパストゥールの「科学者の道」の映画がああいう感動をもって一般に受けいれられるという事実は複雑な時代の感情をも語っていることだ。キュリー夫人が、夏どこかの田舎へ行っていたとき、素足で砂のところで休んでいると、そこを記者が見つけて、いろんな
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