く栄蔵も、はてしなく真直につづく土面を見あきて、遠い方ばかりを見て居た。
 五六軒ならんだ人家をよぎると又一寸の間小寂しい畑道で、漸くそこの竹籔の向うに、家の灯がかすかに光るのを見られる所まで来て、何となし少しせいた足取りで六七歩行くと、下駄の歯先に何か踏み返してあっと云う間もなく、ズシーン、いやと云うほど尻餅をついてしまった。
 只ころんだだけだと思ってフイと起き上ろうとしたがどうしても腰が切れなかった。
 二三度試みて居るうちに、頭の中央と亀の尾の辺が裂けそうに痛んで来た。
 片手に杖を握り、片手に額をささえて両足を投げ出したまま痛みの鎮まるのを待った。
 町に出るものもなし、子供も食事に引き込んで居て栄蔵の周囲には、小鳥一羽も居なかった。
 冷い風が北から吹いて来て土面について居る脚や腰を凍らす様にして行く。
 痛さは納まりそうにないので、体の全力を両足に集めて漸く立ちあがり得た栄蔵は、体を二つに折り曲げたまま、額に深い襞をよせて這う様にして間近い我家にたどりついた。
 土間に薪をそろえて居たお節は、この様子を見ると横飛びに栄蔵の傍にかけよって、
[#ここから1字下げ]
「まあど
前へ 次へ
全88ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング