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「何ぼ私が酔狂だって、何時なおるか分らない様な病人の嫁さんに居てもらいたいんじゃありませんよ。若し、何と云っても自分の懐をいためるのがいやだと云うんなら誰の苦情があっても、子供のないうちにさっさと引き取らせて仕舞う。
頭の先から尻尾《しっぽ》の先まで厄介になりながら、いい様に掻き廻すものをどうして置くわけがあるんですい。若し、恭二がかれこれ云う様なら二人一度に出すまでの事さ。
お君だって家にとってさほど有難い嫁さんでもないし、又恭二位の男ならどこにだってころがって居るわね。
私は、嫁入り先をつぶす様な嫁さんは恐しくて置けないよ。
若し始めっから潰す量見で来たんならもう少し潰しでのあるところへお輿《みこし》を据えたらいいだろう。
何も二人に未練はありゃあしない。
ああさっぱりしたもんさ、水の様にね。
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あんまり調子づいて、心にない事まで云って仕舞ったお金は、ホッとした様に溜息を吐いて体をぐんなりさせて片手を畳に突いた。
ガリガリと簪《かんざし》で髷の根を掻いて居る様子はまるで田舎芝居の悪役の様である。
あまり怒って言葉の出
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