父親を起すまいと気を配りながら折々隣の気合[#「合」に「(ママ)」の注記]をうかがって、囁く様に恭二に話した。
 川窪で若し断わられたらどうしよう、東京中で川窪外こんな相談に乗ってもらう家がない。
 どうもする事が出来ずに父親が帰りでもしたら又何と云われるか分らない。
 それでなくてさえ、
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「義母はんはこないだも義父はんと云うてでしたえ、
 若しお金をどむする事出けん様やったら私早う戻いて仕舞うた方がええてな。
 義母はんは、若しもの時はそうきめて御出でやはるんえきっと。
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 恭二は、行末の知れて居る様な傾いた実家を思うと、金の無心も出来ず、まして、他の人達のする様にそっと母親の小遣いを曲げてもらうなどと云う事も、母の愛の薄いために此家へ来た位だから到底出来る事ではなかった。
 中に入って板挾みの目に会いながら、じいっと押しつけられて居るより仕様がなかった。
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「そんな事は口の先だけなんだよ。
 何ぼ何だってそんな事が出来るわけのものじゃあないじゃないか、
 大丈夫だよ。
 義母《おっか》さんがよしそう云ったからって
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