て居る。
前にもまして陰気に、影がうすく、貧しげである。
あれから、半年ばかりの間に、どれほどの苦労をしたのかしらんと、恭二は、ぼんやりと、無邪気な、子供が鳥の飛ぶのを驚く様な驚きを持って居た。
隣の間の夫婦は、こっちに声のもれないほどの低い声で、何やら話し会って居るらしい。折々、
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「フフフフフ
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とか、「いやだねえ」
などと云うお金の声が押しつぶされた様に響いて来た。十二時過まで、何かと喋って居た三人は、足らぬ勝の布団を引っぱり合って寝についた。
恭二が、じきに、フー、フーといびきをかき始めると、急に、夜の更けたのが知れる様に、妙にあたりがシインとなって仕舞った。
部屋の工合が違うので、ゴロゴロ寝返りを打ちながらうかうかとさそわれ気味で、出て来は来ても、これからたのみに行って、金策をしてもらうべき人達を、今になって、あたふたとさがさなければならなかった。
あの人や、この人や、栄蔵と親しくして居るほどの者は、皆が皆、大方はあまり飛び抜けた生活をして居るものもないので、勢い、同情を寄せてくれそうな人々を物色した。
知人の中には
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