おっつけられないうちに、どうとかしたらよかろう。
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 姑は、それをつきつけては嫁をいびった。
 息子は、信じなかったけれ共、あんまりせめられ様がひどいので、取りのぼせて、自分で猿轡《さるぐつわ》をはめて、姑の床のすぐ目の前で、夜中に喉をついて仕舞った。翌朝、姑が目を覚ました時、血だらけの眼をむいてにらんで居た。
 松の助は、古い講談をする様にお節に話した中には、こんな事もあった。
 気がまぎれないのでいろいろの事に思いふけって、
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「お君もほんに、一気な事をせん様に云うてやらんけりゃあなあ、
 あのお金はんに、いびり殺されて仕舞う。
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などと思って居た。
 十三の年から東京に出て、他人の中に揉まれて居るあととりの達の事、お君の事などが入りまじって心配になって、もう一っそ一思いに、夫婦と、子供等一っつながりになって、ボチャンとやってしまいたくなどなった。
 東京からの便《たよ》りを待って、お節は暗い日を送って居た。

        (三)[#「(三)」は縦中横]

 六年で出て見る東京の町は、まるで、世が変った様
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