幹について居る。
 お君は、それを天竺から降った花ででもある様に、ためつすがめつながめて賞めた。
 大きな声を出してお君が物を云って居るんで、お金は境の唐紙の所の柱によりかかって、親子の様子を見て居たが、二人が頭をつき合わせて一つ鉢の花を見て居て、自分は斯うやって一人で立って居るのかと思うと極く子供っぽいながら、烈しい、うらやみとねたみが湧いて来た。
 ああやって、あんなしなびた様な花さえ賞めて居るお君が、同じ口で、どれほど自分の陰口をするのか分らないと思うと、半分は自分で意識しなずに、高い声で、
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 親子ほど有難いものはないねえ、
 親のくれたものだと思うと、袂糞でもおがむだろう。
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と云って口の辺をヒクヒクさせた。
「姑」と云う感じが胸一杯になって居た。
 いつもなら、赤くなって、だまり返って居るお君が、力強い後楯がある様に、
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「ほんにそうどっせ、
 袂糞やて父はんのおくれやはったものやと思えば有難う思うでのみますわ。
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と云い返した。
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「そうだろうってさ、
 お前のお父さんは袂糞位が関の山さ。
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と捨白辞をのこして、パッパと隣りへ行ってしまった。
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「あんまりどっせ、
 何ぼ義母はんやかて我慢ならん事云いやはる、ほんに。
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 お君は、真赤になって涙をいかにも口惜しそうにボロボロこぼした。
 栄蔵は、だまって、墨色をした鉢と、火の様な花を見ながら深い思いに沈んだ。
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 何故斯うやって、仲の悪い同志が不思議にはなれられない縁でむすばって居るのだろうか。
 早く、どっちかが死ねば少しはよくなるだろうのにそうもならない。
 自分からして生きたくないのに生きて居なければならないのも何故だろう。
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 世の中が、平ったいものであったら、その突ぱなまで一束飛びに飛んで行って、そこから一思いに、奈落の底へ身でもなげたい様な気持になって居た。
 恭二が良吉より先に帰って来ると、お君は何か涙声でボツボツと只気休めに、養母に頭を押えられて居る力弱い夫に訴えて居た。
 気の置ける夕飯をすますとじきに疲れて居るからと云って栄蔵は床に入ってしまった。
 お君は
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