つついて居る。
暫く眺めて後、私は、箱に手を入れて一掴みの粟を、勢よく、庭先に撒いた。人間より遙かに敏い瞳と、本能を持った彼等が、幾何、一面の苔の間に落ちたとは云え、自分等の好む、餌の馳走を心付かぬことはあるまい。
真先に屋根から降りる先達は、どの雀がつとめるだろう。
庭へついと、遠い遠い彼方の空の高みから、一羽の小鳥が飛んで来た。すっと、軽捷な線を描いて、傍の檜葉の梢に止った。一枝群を離れて冲って居る緑の頂上に鷹を小型にしたような力強い頭から嘴にかけての輪廓を、日にそむいて居る為、真黒く切嵌めた影絵のように見せて居る。囀ろうともせず、こせついた羽づくろいをしようともせず、立木の中の最も高い頂に四辺を眺めて居る小鳥の姿は、一種気稟あるもののように見えた。じっと動かない焦点が出来た為、私の瞳は、始めて動くともなく動いて行く白雲の流れにとまった。雄々しい小禽と一房の梢を前景として、初冬の雲が静かに蒼空の面を掠め、溶け合い、消え去って行く。――私はひとりでに、北方の山並を思い起した。今頃は、どの耕野をも満して居るだろう冬枯れの風の音と、透明そのもののような空気の厳かさを想った。底冷えこ
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