し戸をあげ、餌壺を出して、塵を吹き吹き、二つの掌から粟を満した。次手に水も代えた。余程空腹であったのだろう。手を入れた時、さっと上の止り木に舞い上った鳥等は一枝、一枝と降り、私の指先がまだ皆は籠から出ないうちに、もう群れ集って食べ始めた。ツーともチチとも云わない。まことに飢えたものの真剣さを、小さい頭、柔かい背に遺憾なく顕わして、せっせと、只管《ひたすら》に粟の実を割るのである。
微かながら絶間のないピチ、ピチ、と云う音をきき乍ら、私は、寂しい、憂わしい心持に襲われた。小鳥を飼う等と云う長閑《のどか》そうなことが、案外不自然な、一方のみの専横を許して居るのではなかろうか。
此等の愛らしい無邪気な鳥どもが、若し私達が餌を忘れれば飢えて死ななければならない運命に置かれて居ると知るのは、いい心持でなかった。
飼われて居ない野の小鳥は、自然の威圧にも会うだろうが、誰かに餌を忘られて、為に命を終らなければならないと云う憐れさは持って居ない。
私は眼をあげて、隣家の屋根の斜面に、ころころとふくれて日向ぼっこをして居る六七羽の雀の姿を見た。或ものは、何もあろうと思われない瓦の上を、地味な嘴で
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