雨の昼
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)朦朧《もうろう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三九年七月〕
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雨の往来から、くらい内部へ入って行ったら正面の銀幕に、一つ大きいシャンデリアが映し出されていた。そのシャンデリアの重く光る切子硝子の房の間へ、婚礼の白いヴェイルを裾長くひいた女の後姿が朦朧《もうろう》と消えこむのを、その天井の下の寝台で凝っと暗鬱な眼差しをこらして見つめている女がある。順をおいてみて行ったら、それが母の再婚に苦しむ娘イレーネの顔であった。
「早春」という映画は近ごろ評判にのぼったものの一つであったらしい。女の画家や、作家がそのつよい印象を語っていられる文章をどこかの広告でも読んだ。母ジェニファーの新しい愛人、そして良人として現われたコルベット卿をやっている俳優が、英国風の紳士というものを何か勘ちがいして、英国名物のチャンバーレン、蝙蝠《こうもり》傘は忘れずその手に持参しているばかり、到ってユーモアも男らしい複雑な味もなく一番つまらない。ジェニファーをやるユンツェルもイ
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