生えて地面を被うている。それだのに、たった一箇所、雑草も生えていなければ木もなくむき出しのところがあった。それは例の、三方羽目に塞がれた空地だ。そこのがらんとした寂しい地面の有様が子供の心をつよく動かした。何故ここだけこんな何もないのだろう。――或る日、子供は畑から青紫蘇の芽生えに違いないと鑑定をつけた草を十二本抜いて来た。それから、その空地のちょうど真中ほどの場所を選んで十二の穴を掘った。十二の穴がちゃんと同じような間を置いて、縦に三つ、横に四側並ぶようにと、どんなに熱心に竹の棒で泥をほじくり廻しただろう! 根が入る位の大きさに穴が出来ると、一本ずつ青紫蘇に違いない木を植え込んだ。さあ、これで花壇が出来上った。――得意なのは子供ばかりではなかった。誰からも忘れられていたような空地も、その花も咲かないひょろひょろした花壇を貰って嬉しがっているようであった。
ところが二日ばかりすると、雨の日になった。きつい雨で、見ていると大事な空地の花壇の青紫蘇がぴしぴし雨脚に打たれて撓う。そればかりか、力ある波紋を描きつつはけ道のない雨水が遂にその空地全体を池のようにしてしまった。こんもり高くして置
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