いた青紫蘇の根元の土でさえ次第に流され、これは今にも倒れそうに傾きかけるものさえ出て来た。――
 私は小さい番傘をさし、裸足でザブザブ水を渉り花壇へ行って見た。保修工事が焦眉の問題であった。私は苦心して手頃な石ころを一杯拾って来た。傘は夙に放ぽり出し、土の流れを防ごうとして、一本一本根の囲りをこの小石で取繞んだ。が、瞬く間に情なしの広い空地の水は石をも越した。石ころも、根も水づかりだ。葉は益々悲しげに震える。心配ではち切れそうになった子供は、両手で番傘の柄を握り、哀れな彼等の上にそれをさしかけた。しっきりなく傘を打って降る雨の音、自分がずぶ濡れになる気持、部屋の中で小さい弟が駈け廻るドタドタいうこもった音。自分も一本草のように戦きながらそれ等を聴き感じ子供は久しく立っていた。
[#地付き]〔一九二六年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「読売新聞」
   1926(大正15)年9月22〜24日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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