緊張より、はるかに密度のたかいものである。その緊張に共感してゆくにつれ読者の心はひきしめられ、精神がしまってゆく。その感覚は、文学に習慣づけられていた有閑のくつろぎと反対な性質のものである。「乳房」は白昼の光線にてらし出された生活の上にリアルな闘いのいきさつが展開されているのである。一時の、クライマックス的事件のスリルの描写としてではなく。人民と権力との抗争と現実がこんにちにおいてもそうであるとおり、毎日、いろいろな形に細部を変えながら、しかしきのうよりきょうへ、そして明日へと根づよく断続されてゆく、そのリアリスティックな人民の幸福への闘争の精神が「乳房」の基調となっている。
「乳房」は翻訳されてソヴェト同盟から出版されている世界革命文学の選集に採録された。
「風知草」について
わたしがプロレタリア文学運動に参加したのは一九三一年一月のことであった。したがって、わたしは計らずも日本の人民生活のすべてとその解放運動がファシズムの波の下にひしがれはじめた時期と時を同じくして、その怒濤の下に身をさらすことになった。階級的作家として転換してから理論的にも創作能力においても
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