深くなって行った。男からはますます解らない謎のかたまりになって来た。けれ共云う事はお互によく分り合って居た。
「貴方は段々私に考えさせる様になって来る」
男はあけくれ机に向い自然とぴったりあって嬉しさにおどって居るまだ若い彼の女を見て居た。彼の女の心のオパアルはより以上に複雑にこまっかくするどい光をはなして居る。
或る人の一日
何とはなし、どうしてもぬけないけだるさに植物園にスケッチに行くはずのをフイにして、食事がすむとすぐ相変らずのちらかった二階に上って、天井向いてゴロンとひっくる返った。ぞんざいな造りの天井をしさいに見て居ると、随分といろんなものがくっついて居る。それを検微鏡で見たらさぞ面白かろう、まのぬけた顔をしてこんな事を思った。まだ買って来て半年もたたない浅草提灯のひだのかん定を始めたが、どうしても中途まで来ると数が狂ってしまう。幾度くり返してもくり返しても同じなんで「人馬鹿にしてる」こんな事を浅草提灯に云ってムックリと起上った。机の前に座ったがどうも気が落つかない。こないだ注文してやった筆立の形も思う通りに出来るかと思って不安心だし、下絵の出来て居る絵の色
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