裏に光って居るまっさおな光がせせら笑いをしてちゃかしてしまうのが常だった。心の光が全体同じ色に光って呉れる時は、どこに行っても手を開いて抱き込んで呉れる自然に対した時ばっかりであった。
赤い光が「彼の人を恋人にしてやろうか」とつぶやくと青い光は「フフフフフ」と笑って笑いも消える時には「恋人にしてやろうか」と云う光は消えてしまって居た。
「恋をするんならお七の様な恋をする。それでなけりゃあ歯ぬかりのする御□[#「□」に「(一字不明)」の注記]みたいな恋はしたくない……」彼の女はよくこんな事をその男に云う事があった。
春がすぎて夏になった。囲りにはまるで若武者の様な力づよさとなつかしさがみなぎり始めた。彼の女はもう男の事なんかすっかり忘れぬいた様になって、このまんま死んで行きゃしまいかと思われる様な草の香りや、自分の姿を消してしまいやしまいかと思われる青空の色やに気をうばわれて居た。其の男はぬけ出した彼の女の魂の又もどって来て自分を思い出して呉れるまではどうしてもしかたがない――とあきらめた様に女の様子を上目で見守って居た。男は彼の女があんまり思い切った様子をするのが見て居られなくって
前へ
次へ
全85ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング