のたつほどいやなみっともないものにして見せた。笑いながら軽い口調でじょうだんを云いながら、女は男の心を目の前に並べて見て居ると云う事は、男がどんなにしても知る事の出来ない事だった。女の心はよく男の心とまるであべこべの方に走って行く事があった。それでも二人はにらみ合いもしないで会えばじょうだんも云い、下らない事で笑ったりして居た。女は自分の心の底の底までさらけ出して男に見せたくなかった。自分の思って居る事、考えて居る事を、男が味のない話でうちこわしにかかると女はいつでもフッと口をつぐんで、すき通る結晶体の様な様子をしてたかぶった目色をして男を見て居た。時には自分の予期して居る返事とまるであべこべの事を云われた時の辛い心を味いたくなさに「何々と云ってちょうだい」と口まねをしてもらう事さえあった。男は彼の女をよく我ままな人だと云って白い眼をする事もあった。けれ共どうした訳か二人は仲が悪くならなかった。女の一寸したそぶりが男の気にかかって、一晩中ねもしないで翌朝青いかおをして男が来た時も、女はすき通る様なうすいまぶたを合わせてね入って居たり、男が女の気むずかしいかおを気にするのを見向きもしない
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