毎に私の苦しさは段々と勝って来た。私は「何! 何!」斯う云いながら太い太い溜息をついてヒョット御けいちゃんのかおを見た。
「アッ」私はそう云ったまんま目をつぶらないわけには行かなかった。ガックリとあごのはずれた骨ばかりの顔がお敬ちゃんの胸にくっついて居た。どうしても私はそれが気のかげんだと云ってしまえないほどおびやかされた気持になった。そしてふるえた。いかにもおく病らしい声で斯う云った。
「今おけいちゃんのかおが骨ばっかりに見えた」
「何をマア、だから貴方今日はどうかしてるって云うんだ、その青いひやっこそうな顔はマア」
 思いがけなく今まで思いもよらなかった力づよい様子をして私の肩を叩いて居る。
 私とお敬ちゃんの気持はまるであべこべになって仕舞った。そして、苦しさにみちた私の心は、いまにもはりさけそうになって居る。ひたいがつめたくなって、気が遠くなりそうな気がする。
「そんなに苦しいんならもうゆるしてやるがいいさ」形のないものは私の頭に斯う指図をした。
「家へ帰りましょう、それから思いっきりにぎやかな所へ行きましょう」
 小さい声で云ってつまさきを見たまんま大急ぎで家の沢山ある通りに
前へ 次へ
全85ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング