好キなんだから……」
 こんな事を云う間お敬ちゃんは淋しい目つきをして私を見て居た。
 私は私を真面目に見てて呉れる人をこんないたずらをしちゃあすまない、斯う思われて来た。かまわない今日一日は自分で自分の心がどうにもならないほどにいじめぬいてやる。私は自分の気持をジーッと見つめながら斯う云った。一寸たちどまって又歩き出した。
 二人は手をしっかりにぎりあって居る。その指先にはお互のかすかなふるえがつたわって居る。早足にトットッと歩いた。
 お敬ちゃんはもうどうなっても仕方がないと思い、私は只あるいてさえ居ればいい、斯う思って居る。いくつもいくつもの細い道を曲った。そのたんび二人はもと来た道をふり返りふり返りして居た。
 私の心ん中は妙にかちほこった様なこんじょの悪い力づよさがこもって居る。
 お敬ちゃんは私のためならどんな事でも、と云う様なすなおな「マア」と声を出したい様な様子をして居て呉れる。そんな様子を見た私は段々むなしい気もちになって来た。けれども「何! 何! 今日一日私の心をいじめてやるんじゃあないか」斯う思って奥歯と奥歯をしっかりとかみ合せた。そうして又歩きつづけた。
 一足
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