座ってしまった。
「ア――」
腹の底からしみ出す様に悲しい心は、口からとび出して斯ういう声になった。
「アア、己は運命と云うものの前にひざまずいて思うままにされなくっちゃあならない体になってしまった。己は、自分から運命を開拓して行く事は出来ない。ほんとうに己は呪われたあわれな一つの動物なんだ――」
あきらめきれないのを無理にあきらめて、男鴨はヨチヨチと立ち上った。同じ庭に養われて居る鶏までこの可哀そうなたった一人ぼっちの鴨をいじめるという事はなしにいじめ、いつもまっ正面からシゲシゲとかおをのぞき込んだあげくにくるりと後をむいてパッと砂をけあびせる様な事をして居た。
かわいいひよっこのする事さえ気弱なウジウジした男がもにはツンツンと体中にこたえた。
「どうしても、だれか殺して呉れるかひとりでに命のなくなるまではどうしても生きて居なくっちゃあならない」
と云う事は、女房をなくしてから、たださえ陰気なのが一層陰気になった男鴨にはたまらなく苦しい事だった。白い目をして天をにらんでは呪われた様な自分の弱い力を思ってイライラして居た。その次の日もその次の日も男鴨は一日も早く自分の生の終るのを
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