云うものを末の末まで己達の子孫の力をかりて呪ってやる。己の可なり愛して居た女房を三人まで殺したのはあの爪のするどい動物の仕業だ。己はあれも呪ってやる。己の敵は己の四方どこにでも居るが……一人の味方さえ今の己はもって居ない――」
男鴨はもうどうしていいか分らないほどイライラした気持になった。大儀そうに体をうごかしてあてどもなく歩き廻った。そして何の気もなしに三人目の女房がひやっこくなって居た茗荷畑の前に行った。
「…………」
男鴨は息をつめて立ちどまった。
頭の中にはあの時の様子がスルスルとひろがって行った。女鴨が死んだと云う事は知って居るけれ共まだ、そこに居る様に思われてならなかった。つきとばされる様に男鴨は畑の中にとびこんだ。中には何のかげさえもない、女房の体の長くなって居た所に自分も又体を横にした。
「これよりいやな思いをしない中に己は死ぬ事をねがって居る、……」
男鴨は斯うつぶやいて死の使の動物の来るのを待った。女房の血のにじんで居る土の上で自分も死ぬと云う事は死んだあとにも好い事がありそうに幸福らしく思われた。
ジーッと男がもは待って居た。けれども待って居るものは来な
前へ
次へ
全85ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング