た時、おそろしい力でとうてい私のおさえる事の出来ない勢でかんしゃくの虫があばれ出した。私は歯をくいしばったまんま、ツイと手をのばしてわきにたて廻してあるはりまぜの屏風のうらをひっかいた。浅黄色の裏は、
「ソーレ」
と云った様に白いはらわたをむき出した。
千世子のどうしようもないかんしゃくを、嘲笑う様にあさぎのかみはヘラヘラヘラとひるがえってペッタリとはりつくかと思うと、パカンと口をあいて千世子の心をいじめぬいたあげくだらんと下ってそのまんま死んだ様に動かなくなった。
私はそれを目をはなさず見て居た中にそのひるがえる毎にKのあのふくみごえの笑いごえが交って居る様に思えた。
「HさんとMさんと母さん」
私はなげつける様にどなって、ひやっこいたたみの上につっぷした。
こぼれ出る涙が畳の上に涙のうき島をつくって、そこの女王に私をしてくれる様に思ってうす笑いながら私はなきつづけた。
雨の日
外はシトシトとけむる様な雨が降って居る。私とお敬ちゃんは、紫檀の机によっかかって二人ともおそろいの鳴海の浴衣に帯を貝の口にしめて居る。紺の着物の地から帯の桃色がういて居る。
「ほんとう
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