わ。だけれども、そうじゃあないんですもの、あの人だって、随分心配しているんですもの。――また」ゆき子は、涙ぐんだ。「若し、私の仕事なんかどうにでもなれ、と思うような人なら、始めっから結婚なんか、しやしない筈じゃあないの」
「――それは、真木さんは、お前なんかとは比べものにならないよ」
「まあ、どうして?」ゆき子は、愕いて母を見た。
「どうしてって――あの人はお前より、役者が上だよ」
「ごまかしているとおっしゃるの?」
ゆき子は、たとい相手は母ながらも、必死な力が衝上げて来るのを感じた。
「まさか、それほどではあるまいが、少くとも、お前をすっかり、把握しているのさ」
「お互に影響し合うのは、勿論あたりまえのことじゃあないの?」
「お互なら云うことはないさね。けれども、私の目が間違っているかは知れないが、あのひとは、事実お前を支配しているよ。上手にお前だけを反省させておくね」
「…………」
ゆき子は、今更ながら母の真木に対する隔意を感じずにはいられなかった。彼女が自分の為を思い、仕事の纏まらないのを心から憂いていてくれることは疑もないのだ。けれども、その気持を言葉に出して云おうとすると
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