たに違いないと思うわ」
彼女の声の調子には、しんから優しい一種の響がこもっていた。が、寿賀子は、まるで侮辱されたように、激越した言葉でそれを否定した。
「私の結婚したてなんか、泣いてばっかりいましたよ。――それにしても、何故お前は、何だというとそう一々弁解したり、説明したりしようとするんだろう! 私ばかり云い伏せようとしたって駄目だよ。現在、仕事は出来そうにないじゃあないか。種々人に訊かれたり厭味を並べられたりしても、凝っと堪えて、いつか出来るかと思って待っているのに――」母は、ふるえて来る声をぐっと堪えた。「境遇だ、境遇のせいだ、と云っているけれど、一体それは、何時どうなるの? 放って置いて、ひとりでにどうにかなるのかえ? お前は境遇境遇と何か一つの動物見たいに云うけれども、境遇といったって、詰り対手じゃあないか? 相手の人格じゃないか」
「――だけれどもね、おかあさま」
ゆき子は、思わず熱心を面にあらわした。
「私の仕事の出来ないのを、若し、真木の故だとばかり思っていらしったら、大変な間違いよ。勿論、若し、あの人が私の仕事なんかどうでもいい、止めてしまえと思っているんなら、悪い
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