いになるの?」
ゆき子は、我を忘れて詰るように問い返した。
「だって事実だもの」母は、さも当然だという風に落付いて見えた。
「気持が二半では、どんなことだって出来っこないよ。……全く、お前のように何か遣ろうとする者に、結婚は大問題だね。まるで気分でも何でも違ってしまうんだもの――」
その悔恨めいた数言を聞くと、ゆき子は、はっきり母の衷心にある気分を知ったような心持がした。
それと同時に、何処まで行っても抜け切れない暗闇の洞穴に向ったような気がした。底流では話の中心が、もうすっかり異った点に移ってしまったのだ。が、ゆき子は努めて、会話を穏やかに進行させようとした。
「男の人に比べれば、どうしてもそうらしいわね」彼女は考え考え答えた。
「けれども、一方から考えれば、それだけ、結婚は女の人にとって本質的に重要だし、大切な発達の一段になるのじゃあないかしらん――少くとも、私は、自分にとってそうだと思うわ」
「勿論そうさ。よく変って行きさえすればね」
「よく変る、悪く変る、は、各自の態度によるのじゃあないの? それに向って行く――」ゆき子は母の顔を眺めた。
「それはそうだろう。併し、或る人
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