何か犯罪をやって現に拘禁されている者の両親は、大抵揃っていず女親だけで、その女親も売笑婦が高率を占め、又その女たちはアルコール中毒にかかっているか、さもなければひどい酒呑みが多いと結論している。ロンブロゾーは、そこまで社会の現象を探求したのであったがそこからは元へ戻って、だから犯罪型の人間は目下地道に暮していようと先天的な犯罪可能者であるという宿命論めいた断言を強めているのである。
 ロンブロゾーの現実の掴みかたは、現象主義で、目前にあらわれていることだけの統計によって自説をかためた。彼は、一歩進んで、それならば、犯罪型の頭蓋骨をもち、脳の発育の型をもった者の両親は、何故に片親となったか、何故女親は多く売笑婦になっているか、のんだくれであるかという、社会関係に迄つき入って、人間の生理を研究する力をもち合していなかったのである。
 ロンブロゾーは、警察官の先入観念に一つの犯罪型という骨相上の分類を加えてやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的関係、ましてや戦争の後帰還
前へ 次へ
全14ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング