肢が短い。この統計によって見ても明かなように高級な智脳活動にはすらりとした背も高いタイプが適し、工場の労働、農業などにはずんぐりで手脚も太短い娘が適しているのである。云いかえれば、今の世の中で下積みの女は、下積みで生涯を過していいように生れているとそういう論である。
私は、入沢達吉博士の随筆をまたないでも医学博士というものの実質に多大の疑問をもち、又愚劣さを感じた。
現在のような社会で、女が弁護士となり、又医師になるのはその専門技術をとおして婦人大衆の大小様々の荷に喘いでいる肉体と精神とを少しでも幸福の方向に助け導くことにだけ社会的意義がある。更に鋭い科学者の観察で現実を見きわめる卓抜者は、やがて、婦人大衆の生存の苦楽は、男との相対関係にだけ規定されるものでなく、両性の関係をも支配するところの社会機構の本質の問題にかかっていることを観破せざるを得ないであろうと思う。
私は、良人の学業を信頼し、科学性の常識化を翹望するよき数人の夫人達が、科学の科学性を十分発揮し得る社会とは、どのような社会であるかということについて、優しい心で真面目に一考されることを切望するのである。[#地付き]〔一九三五年五月〕
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
初出:「社会評論」
1935(昭和10)年5月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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