Rになる時もあるように、愛さない、という愛が、却って真実なこともあるのだ!
みさ子 ああ。ああ。こんなに愛しているのに。貴方には! こんなに、可愛いのに!
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みさ子、泣きつつ、子供のように自分の額を、良人の手に擦りつける。
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奥平 (苦々しげに)亢奮が、何の解決になるのだ。……
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みさ子、頭を擡げる。良人を見、絶望でくい入るように、
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みさ子 ああ、貴方は開かない扉《と》よ。叩いても、叩いても開かない扉《と》よ。――私はどうすればいいの?――人間は、言葉でほか、自分の心が表わせない。(烈しい歔欷《すすりなき》。)その言葉を信じられない時。――(蒼白な顔となり)昔の女の人は死にました。私が死ねなかったら――。貴方は、それ見ろ! とおっしゃること?(良人に、じりじりと迫る)それ見ろ! 谷を愛していたのだとおっしゃること?
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奥平の手を掴み、そのまま凝固したように立ち竦む。恐ろしき寂寞。一秒……二秒……さっと 幕。[#「幕。」は地付け]
底本:「宮本百合子全集 第二巻」新
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