オんでいる愛を、そう惨酷に摘発なさるの?
――もうおやめなさい。――お友達にしたって、変な、いやな気持になってしまうじゃないの。
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みさ子、歩きかける。
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谷 まるで子供扱いでは、僕も云いようがなくなります。然し――みさ子さん、これだけは云わせて下さい。愛には、勿論、種々様々な形と内容とがありましょう。けれども、結局、鳴らぬ笛は、鳴らぬ笛なのです。――(腰架《ベンチ》から立つ。)それでは、裏へ行って見ますか?
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みさ子、黙って先に立って行く。
殆ど、入れ違いに、下手から、英一、奥平、低声に話しながら出て来る。
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英一 (圧えた声調で)――実際、僕としてこういうことを云うのは苦痛です。一方では、谷との友情を裏切ることになるし、また、貴方に対しては、そんな責任のない交際を始めさせたという点で。けれども、貴方が、僕にかけていて下さる信頼を思うと、つい黙っていられなくなったのです。
奥平 (陰鬱に)いや、有難う。御厚意は感謝します。
英一 (奥平を偸見《ぬすみみ》)けれども、くれぐれ、僕の申上た点を誤
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