素な形のマホガニーの円卓子、布張の椅子、たっぷり薔薇を盛った花壺等が置かれている。
上手の壁際には、大きな金縁の額。書棚。長椅子。重い暗色の垂帳で、隣室と境している。
下手は、一間半ばかり、透硝子のフォルディング・ドーアになっている。前後三尺ずつの壁間は、ヌックよりに彫像、繁った灌木の鉢。下手には、背の高いヴィクター、二人掛の腕椅子等。硝子の折畳扉から差す日が、如何にも晴々と、床に流れ、家具を照し、扉の金色の把手《とって》や、鉢植の新緑を爽やかに耀《かがや》かせる。
幕開く。舞台は空虚。
光りや色彩の快感が、徐《おもむ》ろに漠然とした健康や活力の感を看る者に味わさせた頃、上手の垂帳から、みさ子が出て来る。(藤色のネルの着物、全体、さっぱりした服装)
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みさ子 (部屋に入りながら、振返り)一寸こっちへ来て御覧にならないこと? 綺麗よ。今日は、私がすっかり大掃除をしたんですもの。
振一郎 (黙って入って来る。黒っぽいセルの着付。四辺《あたり》を見廻し)ほう。綺麗だね。
みさ子 この部屋は、日がよく射すから、猶気持が好いわ。(ヌックの方へ行く)御覧なさいませ。一寸こ
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