ニの愛が輝き出すか、詰らない石ころが転り出るかを、知るためにね。
みさ子 (絶望的な烈しさで)私二つの愛なんかありはしないわ。たった一つよ。(思い切って)奥平が可愛いだけだわ。あの人に可愛がって貰いたいだけだわ。
谷 だから、それほどの愛に報いられるためには。
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二人の会話をきき、歩き廻っていた英一、殆ど、顔色を変え、
[#ここで字下げ終わり]
英一 谷! やめろ。まるでみさ子さんを苦しめているじゃあないか!
谷 (微かな亢奮を持ち)苦しめるのじゃあない。終局に於て、持っていられる感情を、一層純粋に生かすためだ。
英一 傍で聞いては、まるで誘惑しているとほか思えやしない!
谷 ――橋詰。君の態度は、失敬ながら、崇高じゃあないよ。他人を非難することは、何も自己の優越を表しはしない。――(英一を見守り)男一人の心、で当ったらいいじゃあないか。(独白的に)君のみさ子さんに対する友情[#「友情」に傍点]はよく判っているよ。
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英一、みさ子の方をちらりと見、あわてて何か云おうとする。みさ子、二人の会話はきかず、掌に顎をのせて考えている。この時、さっと立上り、考えを変えようと、頭を振り。
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みさ子 さあ……もう議論はやめ。――紅茶でも入れさせて来ましょうね。(去る)
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沈黙、穏やかでない雰囲気の裡に、谷、英一、顔を見合せず、動かず、幕。
第二 庭
常緑樹の深い植込み。間を縫って、奥の方に小径があり、上手、屏風のように刈込んだ檜葉《ひば》の下には、白い石の腰架《ベンチ》が一つある。
傾いた午後の日が、穏やかに明るく、緑樹の梢、腰架の縁などを燦めかせる。
幕開く。
みさ子、谷、上手の方から悠《ゆっ》くり連立って出て来る。
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みさ子 あの薔薇だって、爺やが丹精してくれるから綺麗に咲いたのよ。私も、奥平もいっこう構わないんですもの。
谷 ここはいつも気持がようござんすね。(四辺を見廻し、腰架に掛ける)
みさ子 (離れて立ったまま)英一さんはどうしたんでしょう、直ぐ来るって云いながら――
谷 奥平さんに用があるんでしょう。(皮肉な調子)
みさ子 奥平に? そう? ちっとも知らなかったわ。それならそうおっしゃればいいのに――。妙な人!
谷 そう、くささずに置
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