の薔薇! 素敵でしょう? 私こんなのが咲くとは思わなかったわ。
振一郎 (気がなさそうに)よく咲いたね。
みさ子 匂いをかいで御覧遊ばせよ。いいじゃあないの? ほら!(花壺を持ち、顔を埋めるようにして匂をすい、良人の鼻先に出す)
振一郎 うむ。いいね。花を持った枝は切る方が、来年のために好いんだよ。
みさ子 そうお。私が好きだから、どうせお部屋の花に切ることになってしまうわ。(ヌックの卓子の上に花壺を置き、そこの椅子に坐る)貴方もおかけにならないこと?
振一郎 (ぶらぶら行って、向い合わせに掛ける)英一さん達は幾時頃来るの?
みさ子 わからないの。ただ、お昼っからって云ってよこしただけなんですもの。――でも、きっともうじきに来るんでしょう、どうせ日曜ですもの一日、あの人達は暇なんだわ……(調子をかえ)貴方も今日はいいでしょう?
振一郎 さあ……
みさ子 駄目?
振一郎 しなければならないことがあるからね。
みさ子 (失望を押え)たまだからいいじゃあないの? 一寸でいいから一緒にお茶でも召上れよ。
振一郎 しなければならないことを控えて、表面ばかりおつきあいをしなければならないことはないだろう?
みさ子 それはそうだわ。――だけれども――あの人達だって、随分久しぶりで来るんですもの……
振一郎 あなたが、ゆっくり遊んであげれば結構じゃあないか。
みさ子 だって……(深く顔を曇らせる、遠慮しながら)貴方、あの人達の来るのがお厭なの?
振一郎 どうして? 僕がそんなことを云ったかい?
みさ子 おっしゃりゃしないわ。けれども――若し、悦んで下さるなら、暫くの間位、皆で、気持よく楽しんで下さるのじゃあないかと思うの。貴方は、私独りで遊んであげれば好いだろうっておっしゃるけれど――そうじゃないのよ。
振一郎 僕は僕で、仕事の責任があるんだから、仕方がない。ね? そうでしょう? あなたや、英一さん達みたいに、遊んでいて好い人間ではないんだから。
みさ子 (淋しそうに)何だか、きめっこのようね。私一度でも好いから、貴方にも一緒に面白く遊んで戴きたいわ。いつも、いつも――お仕事!
振一郎 そんな子供のようなことを云うものじゃあない。
みさ子 (涙ぐみ)子供のようなことじゃあないわ。どこに、自分の好きな人も一緒に楽しまないでいるのに、平気で嬉しがっていられる人があって?(強いて確かりし
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