究へひきつけられる。さらに今日常識が遺伝についてある程度の知識を求めているからにはメンデルの「雑種植物の研究」(同上)も、決して身に遠い著作ではないと思う。
 このように遺伝の作用をも内にはらむ人間の生命の生物としての構成の微妙さを私たちに知らせるのは生理学であろうが、H・G・ウェルズが書いた「生命の科学」(平凡社)も、それらの科学の業績に立って書かれた本として読まれてもよいものであろう。人間は生物として自然科学の対象であるばかりでなく、社会をつくって来た民族の歴史からも見られる意味で、イギリスの人類学と民族学の教授ハッドンの書いた「民族移動史」(改造文庫)は、地球の面に行われた人類の移行の理由と結果とをある程度まで知らせると思う。それとともに冨山房の百科全書の「言語地理学」は、あながち言語学者だけによまれるための本ではないであろう。
 太古のエジプトでは、僧侶が人の病をいやす役目もはたしていたという文明の発端から、人類の医療の父として語られるヒポクラテスの話におよびさらに、ウィリアム・ハーヴェーの血液循環の発見があり、やがてパストゥールによって細菌が発見されたのも、ジェンナーの種痘の
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