逆が勝利を占めることを実地教訓する。――これは一つの苦々しき滑稽だ。新聞が、いかに理想低き一営業に過ぎないかを表白している。この精神的影響の上に数万円のハガキ代と、運動費、夥しい労力の消耗との結果、新たに八つの俗地が提灯持ち的に紹介されるに過ぎず、結局日日新聞の広告が全国的に最も有効に行われた事実に帰着するのみだとすると、抜け目なき脳味噌よ、悪魔に喰われろ《チョールト・ポベリー》[#「悪魔に喰われろ」にルビ]、と云いたいような気がすることではないか。広告心理研究《サイコロジー・オヴ・アドヴァタイズメント》の、これは、積極的手段の一例、愛郷心及営利心を利用する方法の実例として好箇のものであるに違いない。――

 雨がやんだ。靄が手摺の下まで迫って来た。今にもう少し暗くなると、狭い温泉町の入口に高く一つ電燈が点る。特に靄のこめた夕暮、ポツリと光る孤独な灯の色はその先に海岸でもあるような心持を抱かせる。北の荒れた漁村でもあるような風景を描く。
 おおこれは。――深い靄だ。晴れた黄昏にはこの辺を燕が沢山翔ぶのだが。
[#地付き]〔一九二七年七月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本
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