に洩れまいとして滞留客へまで帳面を廻し、ハガキ百枚、二百枚と寄附して貰い、三井さんが一万枚寄附して下すったという騒ぎだ。塩原では、臨時事務所のようなところが出来て、そこでは屈強な若者が十数人鉢巻をして、山積したハガキを書いている。通行人の寄附を待つためだろう。往来に机まで出し、選挙事務所のような有様だ。日日は、頻りに投票ハガキの多いこと、為に中央郵便局の消印機が過熱して使用に堪えぬとか、コンクリートの五階が潰れるとか、センセーショナルな記事をかかげる。都会に起ることは知識階級の注意を呼び醒し易いが、この新八景投票のように地方を中心としている現象は、案外多くの弊を生じつつ黙過され勝だ。芸人の投票を昔小新聞がしたように、投票者が実在してもしないでもよい、数さえあれば――つまり運動費が最後の勝を占めるという風なやり方は、果してどれだけ意味があることだろうか。新聞の広告法だ。同時にそれぞれの地方の或る程度の宣伝にはなるが、このことを目撃し、助力した多くの青年、少年達は、投票ということに対して、どのような観念を得るか。時代は投票の純潔さを益々必要とするのに、実際は、公機であるべき新聞が先棒でその
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