に、今度をいいきっかけにして私、天理教のお話でも伺って見ようかしらと思い立ちましたの。若し私が不束《ふつつか》な故で、淑子まで、可愛そうに、不仕合わせになったらそれこそ生きてはいられません。誠之のためにも何かの供養になるでしょう」お恵さんの頬にいつも絶えない、弱々しく淋しい微笑がまたそっと忍び込んだ。
「そして、皆にお詫を致しますの」
「まあお恵さん……」
 ふと会った視線を避け、お幾は思わず伏目になった。かねてから思いもし願いもしたことが、現在の事実となって目前に現れて見ると、彼女は些《すこし》も予想したような、晴々とした大悦びは感じ得なかった。
 却って、何か今迄の自分の経験の中にはないものを、お恵さんは確かりと我ものにして、小さいながら、弱々しく見えながら厳かな重みを持て据ったような心持がする。お幾は、先刻《さっき》までは十分に重かった自分が、俄にふうっと他愛もなく軽いものになったような心持がした。
 けれども、もう二十年も以前にその青春時代の教育をうけた彼女には、自分の胸に湧き起ったそれ等の気分がどこから来たのか細かに考えるだけの力は持たなかった。
 富裕な、地上的にあらゆる幸
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