箝《あては》めて考えて見ずにはいられなかった。つまり、お恵さんの身に現れて降懸って来たこの度の不幸は、どこかに神の御旨を奉じなかったという因が在って起った果ではあるまいかということになるのである。
そう思って見ると、お幾には総てのことが明瞭になるような心持がした。
お恵さんの不仕合わせが神のお怒りの結果だとすれば、彼女は神様に懺悔してお詫をしさえすればよいのだ。そうすれば神は許してこの先の不幸は取除いて下さるに違いない。そう心附くと、お幾はもう黙って次に来る不幸まで負わせてはいられない心持がして来た。自分でなくて誰が、そんな先々のことまで案じてあげる者があるだろう。
今ここで天理王命のお慈悲にさえ縋れば将来総てはよくなるのだ。
お幾は、やがて涙に湿った手巾を膝の上で石畳に畳みながら、
「お恵さん、誠にこの度は飛んだことで何とも申しようがございません。けれどもね、今もこうやってつくづく考えて見ると、これはどうしても只事ではないという心持がして、仕様がないのですよ」
と、改まって口を切った。
「ほんとにあまり急でしてねえ……只事ではないとおっしゃると?」
お恵さんは一夜でめっきりやつれた顔を物懶《ものう》げにまげて、お幾を見た。
「あのねお恵さん私――フト今頭に浮んだことなのですがね、あなたが若しやひょっとして、神様のお怒りにでも触れるようなことをなさった覚はありゃあしまいかと思ってね。神様というものはもともと……」お幾はチラリと相手を偸見《ぬすみみ》た。
「決して罪のない者に飛んだ不仕合なんかはお授けにならないものなのですものね、だから、若しあるなら早く――」
「神様のお怒りに触れる――何をおっしゃるんでしょう! お幾さん」
お恵さんはぼんやりと自分に凭《もた》れていた二人の子を突除けるようにしていずまいを正した。急な緊張に驚いて、我知らず面をあげたお幾は、思わず身が縮むような何物かを、お恵さんの瞳の裡に読み取った。
お恵さんは感違いをしたのだ、ひどいこと! いやな、いやなこと! 本能的にお恵さんが思ったことを直覚するとお幾は、サッと顔の色を変えながら、あわててお恵さんの膝に手をかけた。
「まあお恵さん、どうぞ! 私決してそんな積りで云ったのじゃあないのですよ、ただ、ね、お恵さん、私信心しているものだから……」
救いを求めるような手を、お恵さんは静かに
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