いう風な関係に思った。××町の家の女主でそういうのがよくあるのであった。ところが話しているうちに、女の方が今度新たな家を建てようとする人で、男はただ後見役の位置にいることが分った。四十がらみのその女は、
「ずっと下町にいるから当分淋しくって困るかも知れないと思いますけれど、私も伜《せがれ》も体が丈夫な方じゃないから、一つ思い切って閑静なとこへ引込んで呑気に暮そうと思いましてね」
などと、静かなうちに歯切れよく話した。
「若しお願いするとなりゃこの方に万事御相談願うことになるんですよ。私なんぞ絵図を見せてお貰いしたって、目の前に出来上ってからでなけりゃ、どっち向いて入る訳なんだか見当がつかない有様なんですもの」
 何となし鷹揚な女であった。石川は間数や、大体の好みなどを訊いて帳面につけてから、連立って土地を見に行った。大通りをずっと奥まってから右に入った空地であった。石川は思わず、
「ああ、こっちですか」
と、雑草を掻き分けて踏み込みながら云った。
「ここはいい地面です。あの通り北がずっと松林で囲まれて、こう南が開いていますから。――五百坪ですか」
「そうでしたっけね。……去年来たときか
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