鴎外・漱石・藤村など
――「父上様」をめぐって――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)纔《わずか》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)させてやる云々[#「させてやる云々」に傍点]という言葉づかいの

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)「あか/\と日は難面《つれなく》も秋の風」
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 つい先頃、或る友人があることの記念として私に小堀杏奴さんの「晩年の父」とほかにもう一冊の本をくれた。「晩年の父」はその夜のうちに読み終った。晩年の鴎外が馬にのって、白山への通りを行く朝、私は女学生で、彼の顔にふくまれている一種の美をつよく感じながら、愛情と羞らいのまじった心でもって、鴎外の方は馬上にあるからというばかりでなく、自分を低く小さい者に感じながら少し道をよけたものであった。観潮楼から斜かいにその頃は至って狭く急であった団子坂をよこぎって杉林と交番のある通りへ入ったところから、私は毎朝、白山の方へ歩いて行ったのであった。
 最近、本を読んで暮すしか仕方のない生活に置かれていた時、私は偶然「
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